アフリカとの出会い38
 「ケニア人ママ - そのエネルギー」
   

竹田悦子 アフリカンコネクション

 ケニアから帰国して早や6年の月日が流れた。

 その間2人の子供を出産し、現在仕事と家事育児をする中で、日々思い出すことがある。ケニア人ママのその存在のすごさだ。当時私は結婚はしておらず、気ままに孤児院での仕事や自分の研究調査をしたり、ケニア中を旅行したり、自分の立てた予定で人生を送っていた。

 その当時27,8歳の私の存在は、ケニア人からは稀有に映るらしく、「あなたは本当に自由ね」とよく言われたものだ。確かにケニア人は、結婚が早い。高校を卒業する18歳になると、2,3年のうちにはほとんどが結婚していく。そして子供を産み始める。「結婚適齢期」という言葉があるが、ケニアの女性の結婚適齢期があるとすれば、20歳前後であるのだろう。健康で、結婚適齢期を10年あまり過ぎている日本人の私の存在は、ケニア人男性だけでなくケニア人女性にとっても「不思議な存在」として映っていたようだ。子供たちにもよく聞かれた。

  「いつ結婚するの?」その度に「いい出会いがあればいつでも」と答えていたが、そう答えるとその子供の親が「お見合い」の話をすぐに持ってくるようになり、答え方を考えるようになった。私が考えた答えは、「神に仕える身だから・・・」そうすると、85%がキリスト教のケニアでは、「そっかあ、悦子はシスターだったのだ・・・」と妙に納得してくれてその後は誰も何も疑問に持たないのである。

 ケニア滞在中、何をしても、どこにいても、私の存在が疑問であるケニア人。ウソも方便だ。仕事をするにしても、旅行するにしても、そう説明することで、納得してもらえ、物事がスムーズに運ぶのである。女性の結婚が早く、当たり前の国においてはそういう嘘も自分の立場を人にわかりやすくすることによって得られる利点もあるのである。神様も許して下さるといいのだが・・・。
 そんなケニアの女性は、結婚すると、子供を一人また一人と産み始め、数年のうちに子供を複数抱え「アフリカンママ」となっていく。都市部ではほとんどのお母さんが仕事を持っており、農村部でも農業に従事しているため、子育て・家事・仕事を日々こなしているのである。

 日本との違いは、前回にも書かせてもらったように「ナニー」というお手伝いさんを雇っていたり、親戚の女の子に手伝いにきてもらったりして、家事と育児を手伝ってもらいながら、仕事と家庭を上手にやりくりしている。

日本は子供が小さいときには、仕事を持つ人は、保育園に入れるのが一般的であるが、ケニアでは保育園の保育料とナニーの給料を比較すると、自宅に住み込んだりして家事までしてくれるナニーを雇うほうが効率がいいのである。一か月8,000円もあれば、ナニーはお母さんに代わりすべてをこなしてくれるのである。

 ケニア人ママのすごいところは、仕事と家事の両立にとどまらない。地域社会のつながりを大切にしている地域においては、同民族が主に集まって、女性グループを作っていることが多い。週末の午後だれかの家に集まって、家族の問題点や日常起る出来事について意見を求めあうのである。

 場所は持ち回りで、紅茶やお菓子を頂きながら、集まった女性は、忌憚なく自分の悩みを打ち明けていくのである。会費を集めるグループもあり、その集められたお金は、たとえば学校の授業料が足りないと相談をしたママに貸し付けられるのである。私もいくつかのグループに入って、ケニア人ママの抱える悩みに耳を傾けた。そこでの悩みは、世界中どこでもある悩みである。「旦那が働かない」「給料が下がった」「子どもの教育費が今月は賄えない」「親戚の葬儀費用を援助したい」など・・

 またキリスト教徒としての女性グループもある。同じ宗派に属する女性たちが集まり、教会のことをはじめ、教会員の相談を受けたり、聖書をともに読んだりして、家庭の中でキリストの教えをどう実践していくかについて話し合ったりする会である。ここでも、「子供が教会で行きたがらない」「奉仕活動の時間が取れない」など自分の悩みを打ち明けていくのである。

 ケニア人ママは、このように幾つものグループに属していて、自分の悩みを打ち明けて助けてもらうこともあるが、人の悩みを聞いて、自分に出来ることは積極的にしてあげるのである。子供の数が8人や10人いるママが、自分のした経験を基に、常にアドバイスを求められ、何時間も相談にのっている姿が印象的だった。地域の問題を、家庭の問題を、女性たちはグループを通じて、自分たちが主体となって取り組むその姿。ケニア人ママは、本当に働き者であるとともに、地域を良くするために活動する活動家でもあるのである。

 日本で子育てする私。ケニア人ママのようにはなれないが、そのエネルギーを見習っていきたいと思う。かつてケニア人ママが私に言った。「一人では生きていけないのよ、この世界は」と。

写真:働くケニア人のママ


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